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シナリオ:陸圓編:【絆意志_02】

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陸圓編:

【絆意志_02】

絆石 #2  噂

「リクさん、その身だしなみなんとかしていただけますか」
いきなりミキナから真っ当かつ俺にとっては無茶な要求がきた。
「着替えも金も無一文だしな……」
いきなり絶望的だった。
するとミキナが手にペンを握り、紙に地図を書き始めた。
「ここはサモタ村と言いまして、ここから東に行きますと村の中心部です。そこなら貴方であれば金は無くとも服くらいはなんとかなりますので、適当に調達してください」


どうやら地図によるとここは村の外れのようだ。藪道を抜ければ村の中心部、市場に着くらしい。
俺は1人、ミキナからもらった地図を片手に市場を目指していた。
ミキナは別用で一緒にはいけないとのことだった。あのか弱い身でありながら忙しく切羽詰った日々を過ごしているのだろう。
ただ、俺が出るときに彼女の一言が引っかかっていた。
「なるべく私に関わらないでください。私は、疫病神ですからーー」
疫病神って?
どういう意味なんだろうか…。
謎は深まるばかりだった。
頭を傾げながら、俺は村の市場を目指した。


暫くして、藪道を抜けるとそこは村にしては大きめの市場だった。
数々の乾拭き屋根の看板付きの家が一本道の両端に並んでいる。食料、衣類、鍛治、大工、色々なものが流通しており、人の行き交いもそこそこある。
ただ、村人の様子は皆どこかむっつりしており、ミキナの言うほどあっさりとはいかない気がした。
(自分で調達しろって、まさか盗めってことじゃないだろうな…)


市場の中心部で見て回っていると、少し警戒された目を向けられた気がした。
このボロボロのなりではそうとう普通のことはしていないだろう。やばい人と思われてもおかしくはない。わかっていても悲しい気分だった。
すると、通りのおばさんに声をかけられた。
「あんた随分疲れた体じゃない、もしかして旅の人かい? うちでもてなしたげる!」
都合の良すぎる展開だが、今の状況、断る理由はなかった。


「すいません、余所者の俺にここまでしてもらって」
おばさんの家に向かうなり、パンをご馳走してもらったり、俺の服をわざわざ似たものとタダで交換してもらったり、子供達から肩もみなどをしてくれるといったもてなしづくしの待遇だった。正直今までこの好待遇を受けたことはない。
「いいんだよ、旅の人にこの村のことを覚えてもらえればそれで本望なのさ」
このおばさんは衣類の販売人であり、5人の子供を持っていた。子供達もむしろ余所の俺を珍しいのかいたく興味を持っている。絵に描いたレベルのおおらかな人がいることに心底びっくりだった。
「そういえば子供達も言ってましたけど、旅の人とは一体なんですか?」
「この村では他所から来た人を旅の人と呼んでいてね、旅の人には精一杯のもてなしをしてやるのが決まりなのさ。旅人はみな大切なお客さんだから、お客さん第一なんだよ」
「へえ」
話によれば、昔はこの村の者はみな狩猟民族だったが、獲物がなくなり村の存亡の危機に直面したらしい。そのとき、他所から来た人が稲作やいろいろなことを伝授し、村は息を吹き返した。その後も余所の人と関わるたびに村が活性化していき、今では余所の人への感謝と村が潰れないよう尽力のもと、他所の人は積極的に迎えているのだそうだ。
だが、自分の見た目もあるがどうもあの険しい目はその雰囲気を感じさせなかった。常に何かを警戒していて到底そこまで余裕のなさそうな表情は合点がいかない。
「この村に住み着いてもらうのも嬉しいけど、この村がもっと広まってもっと賑やかになるのが一番だねえ」
といいつつ、おばさんは子供達を見る。そして今までの明るい表情から一変、何度も見た険しい表情でこう続けた。
「ただここ一ヶ月、身内の誰かが死んだり大怪我をすることが増えてねえ、村の人たちも疑心暗鬼になって余所の人を受け入れなくなったのさ……。なぜそんなことが起きるのか未だにわからなくてさ……。」
どうやら一ヶ月前、俺が来る前からあの状態らしい。
「大怪我をした人はこう言うのさ、狼に殺されかけた、この村には人狼がいる、とね。わたしはいるわけがないと思うんだけど……」
「人狼……ですか」
人狼がいるだと?
あのふだんは人になりすまして夜になると人を襲うあの人狼?
「……」
ふと脳裏に知っている顔が浮かんだ。
(まさか……。そんなスンナリとつじつまが合うはずがないよな……。)
おばさんは続けた。
「万が一を考えて夜には子供達を出さないようにしてるのさ。夜の間は旅の人も出迎えられない。」
「そうなんですか…」
「あなた、今夜は泊まっていくかい?」
「いえ、もう泊まる場所はあるので」
ミキナの所で今夜も泊まれるかどうかは不明だが。
「そうかい。夜はあまり出歩いちゃいけないよ」
その後、俺はおばさんに礼を言い、家を後にした。


ここ最近の村人が大怪我を負う怪事件。
けが人の示唆する人狼の存在。
しかもそれは決まって夜。
偶然とはいえかなりの情報をもらった。
俺は探偵じゃないし、この件に深入りできる立場でもないだろうが、なんとなくほおっておくわけにはいかない気がした。
あの子の可能性が残っていたから。
ーーと考えながら街を歩いていると、
「ようそこのあんちゃん!武器やるからちょいと時間くれるか?」
また都合の良すぎるお誘い。断る理由はない。
無防備な今、武器が欲しいのもあるが、何より、例の件について何か聞けるかもしれないと思ったからだ。


中に入ると、レジカウンターの奥の壁にたくさんの銃やナイフなどが掛けられていた。ゴツゴツのデザインで民間用には見えないものも多数ある。鹵獲したであろう重そうな武器もある。
「すごい量だ………」
思わず俺は息を飲む。
「はっはっは、2丁くらいならくれてやるぞ!!ただし、この奥で話をしてからな!」
内緒話か何かを聞けば銃をくれる。
2丁ということはよっぽどの内緒話だろう。有益な情報か、はたまた私的なトンデモナイ情報か。
俺は言われるがまま、店の裏の囲炉裏の間に入り、店主と対面で座る。
「実はな、最近ここらで変な噂が流れているんだ」
急に真剣な顔で口を走らせ始めた。
「一週間で1人必ず、夜中に人狼に襲われ死ぬか、瀕死の重傷を負うとな」
例の事件だった。おばさんの話より少し話が深刻になっている。
「一ヶ月前からずっとだ。うちの村は他所の人と積極的に関わっていく風習だがそれが維持困難にある。毎週一人、森の奥地で誰かが死ぬか瀕死の重傷だ」
「森で……死ぬか……瀕死……!?」
問いかけると、店主は黙って囲炉裏の奥の布団をめくる。 
「…………!!!」
布団に寝ていたのは身体中を包帯でぐるぐるに巻かれた小さな子。もとの姿を想像することはもうできないくらいに覆われていて、目元もほぼ開いてない。
「うちの娘だ」
この包帯だらけの体の主は店主の娘であるとのこと。
話によれば、彼女は毎晩外に出ていたのだが、一ヶ月前の晩に最初に襲われ瀕死の重傷で見つかったとのこと。全身を切り刻まれ一ヶ月間ずっとのこの調子であり、それが起こって以降だんだん余所の人どころか村人同士、関わる回数が減っていってるとのことだ。村中に疑心暗鬼が感染っていてこのままではまた村が潰れてしまうと。
「他所の人に絶対にこんな目にはあって欲しくない。夜には外に出歩かないでくれ。お願いできるか?」
真剣な、悲しげな目つきで俺に目を向ける。
「ああ……」
そう答えるしかなかった。
「だが夜出なくても襲われる可能性は十分にある。だから武器も必要さ」
「確かに……」
あの包帯の量を見てゾッとした。
武器がないと次は追い剥ぎでは済まされない。
そうして、険しい空気の中店に戻る。
約束通り2丁タダでくれるそうだが、俺は武器を使ったことがなく何を選べばいいのか正直わからなかった。
「……えーと……」
結局1丁だけ拳銃をもらった。使い方も一から店主にレクチャーしてもらった。射撃練習も念入りに行った。
実践で使えるかどうかはわからないが、無いよりかはマシだろう。
終わった時には日が暮れ始めてた。
「戻らないとな」
俺は足早に市場を後にした。


「遅すぎです」
着いたのは日暮れ間も無くだった。
帰ってくるなりミキナは昨日より険しい仏頂面で俺を睨みつけてた。
「すまない。なかなか断れなくて」
「でしょうね。大方武器屋の店主に捕まっただろうと思ってました。あの場所が一番時間食いますし」
あっさりバレていた。
「まあ、素人だから店主からレクチャーしてもらってたら遅くなってな。防衛のためとはいえ使えなきゃ意味ないからな」
射撃練習もしたとはいえ、自身は全く無い。
「なら、夜はなおさら出歩かない方がいいですね」
夜だと?
俺は例の話を聞いてみることにした。
「例の話、知ってるのか?毎週夜に一人死んだりしてるって話」
ミキナはすぐに答えた。
「知ってますよ。毎週一人、夜中に森で狼に襲われて、死ぬか、運が良ければ全身を咬み傷と切り傷で昏睡状態になって帰ってくるかという、人狼の話でしょう」
濁されるかと思ったが、そんなそぶりもなく彼女は話した。
おばさんの話とも店主の話とも辻褄があう。それでいて二人より話もより詳しい。
だが、何故彼女が咬み傷まで覚えてるかというか、詳しすぎる話の内容はますます俺の疑いを強めた。
俺はいつしか警戒の目でミキナを見ていた。
「リクさん、人狼が私だと思ってる目をしてますね」
眉一つ変えず、こちらを見たままミキナはそう言った。
そしてこちらの返答をまたず、こう続けた。
「私は毎日、夜明けに森の整備をやっておりまして、そのおかげでそう言った死体を何度も目にしたので……。血の臭いにも慣れました」
「森の整備?」
「はい、この先に続く森の整備をやっています」
そう言いながらミキナは指をさした。
方角は今朝俺が向かった市場とは逆方向になる。
「この先に迷い森と呼ばれる森がありまして、その森の奥地に眠る石を守っているのです。愚か者が手を出さないように」
「森の奥地に眠る石?」
「はい……巷で噂になっている、「望めば願いが叶う石」です」
噂に聞いたことがある。
今の世の中には、信頼を築いたもの同士で強く望むと願いが叶う石、絆石がある。
集めれば集めるほど、より大きな願いも叶えられ、世界中から絆石目当てで冒険者で溢れかえってるらしい。
ただの絵空事かと思ったが、実在するようだ。
「それを守ってるのです。命が惜しくば森には近づかないでください。いいですね?」
怒りにも見える目でこちらを見てくる。
「…………ああ」
ミキナの目の前である以上、そう答えるしかなかった。だが、内心は興味があった。


「ーーーーーー」
眠れなかった。
ミキナに言われた迷い森の話。
そして毎週1人が死にかける怪事件。
妙にどちらも繋がっていそうな気がして目を閉じても脳が働いていた。
「ミキナは寝てるのか……?」
そう思い、奥の方を見る。
いない。
布団すらも敷いていない。
まるで晩にいたのが嘘のように何もない。
「ミキナ……?」
思わず外に出た。
空を見れば斜めに傾いた満月、獣道は行き倒れた時と同じくらいに明るい。
ミキナの話が正しければ、今頃は「森の整備」に行ってるはず。
ミキナは近づくなと言った。だが俺は好奇心に耐えられなかった。
「見てみるか……」
気がつくと俺は、森へと歩みを進めていた。

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