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シナリオ:陸圓編:【絆意志_01】

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陸圓編:

【絆意志_01】

絆石 #1  記憶喪失

ある話を耳にした。
「いまのこの世界では、ある石を求めて冒険に出ている人がたくさんいる」
「その石は「絆石」と呼ばれ、信頼を築いたもの同士が強く願うことで願いを叶えてくれる不思議な石である」
初めはオカルトの話かなにかとかしか思っていなかった。
ただの絵空事だと思っていた。
そんな願いが叶う石なんてあるわけがない。
噂が一人歩きして、皆んな狂信者のように集っている、狂っているとさえ思っていた。
そんなおれも今、ひょんなことからその狂った集団の一人になろうとしていたーー。


「はぁ…はぁ…」
月明かりが照らす寒い獣道を、道もわからずおれはただ命からがら、必死に歩き続けていた。
どれだけ歩いてきたかはもうわからない。記憶もおぼろげで、どうして歩いてるかも分からない。
ただ覚えているのは僅かな感覚。
「立ち止まってはいけないーー」
「止まったが最後ーー」
俺はその感覚に頼り、ほとんど動かない片足を引きずってでも歩いていた。
一心不乱に歩き続けた。
だが既に相当な距離を移動したのか、下半身はもうやめろと言わんばかりに俺の命令を拒否してくる。
もう足はどちらも動かない。
一気に力が抜ける。
「ーーがはっ」
間も無く、おれは倒れ込んだ。
冷たい地面が一気に体温を奪っていく。
意識が飛ぶのは、それから数秒もかからなかった。


「…………ん」
次に目覚めたときは、目の前の景色は獣道ではなかった。
すぐ側に暖かく光を放つ蝋燭、その光を受け姿を見せている辺り一面の掘り起こしの石の壁。そして自分の下と上に敷かれた柔らかな毛布の感覚。
誰かが助けてくれたのだろう。
でなければこんな丁重には扱われない。
だれがたすけたんだ?
俺はゆっくりと辺りを見回す。
左手の奥に反対側の蝋燭が灯っている。
蝋燭の奥に1人、それらしい人が背中を向けている。なりは10〜12歳程度の少女といったところか。
肩までかからない薄緑の髪に白と蒼のドレスのようなものに身を包んでいる。白い縫い合わせの左右に大きなケモノの耳の形のフード、尻から伸びる毛のところだけ禿げている尻尾。
どう見ても「ただの人間」ではない。
とは言っても、今の世界ではケモノ耳の人(獣人)は人間の1/3ほど存在し、普通に一般社会に出てるから全然珍しくはないのだが。
彼女は背を向けたまま無言で何か作業をしている。
起きているのには気づいていないのだろう。作業を邪魔するわけにはいかない。
俺はゆっくり体を起こそうとする。
瞬間、全身に激痛が走った。
「痛っづ………!!!」
俺は思わず声を出してしまい、布団に倒れてしまった。
その音に反応したのか、奥の子の手が止まった。
ゆっくりこっちを向いて、歩いてくる。
そして俺の目の高さで、声をかけてきた。
「起きましたか」
か弱い声でそう俺に問いかける。
「ああ…」
俺はそう答え、ゆっくりと彼女の顔を見る。
左右で赤、黄色と色が違い、黄色の瞳孔は猫のそれに近い。どこからか血生臭さすら感じる。
その目は優しげか儚げかわからない目で俺一点に見つめていた。
初めて見るふつうの顔だが、何故か胸の底を弄ってくる。
「君がたすけてくれたのか」
そう問いかけると彼女は外に目を向けた。
「私の家の前で倒れてましたからね」
一定の口調でそう呟いた。
どうやら俺は彼女の家の前でぶっ倒れたらしい。
「すまない、迷惑だったかな…でも助けてくれてありがとうな」
「いえ」
彼女は特に微笑みもせず、返答に応じる。
「まるで私に追い剥ぎされたようなていでくたばられても困りますから」
どうやら迷惑だったらしい。
追い剥ぎと聞いて俺は自分の体を見る。
服はいたるところでボロボロに敗れ、膝には穴が空き、靴はいまにも底が取れそうだった。
これじゃ追い剥ぎと思われても仕方ない。
「そうだな…」
そう俺も苦笑いで返す。
外を見たまま彼女は続けた。
「もっとも、あなたは手ぶらで行き倒れてましたけど」
「え?」
その一言で気がつく。
荷物らしきものがどこにもない。さすがに何の用か知らないけどこんな知らない場所へ行くのに手ぶらは考え難かった。
(嘘だろ…)
そう思い体を探って見る。だが何もない。
信じたくはなかったが、自分の有様を見れば、荷物くらい落としててもおかしくなかった。
荷物を落としたことすら、おぼろげで覚えてないのかもしれない。だが何もないことは事実、認めざるを得ない。
俺は肩を落とす。
「これじゃ戻れねえな…ハハ」
泣き笑いしてしまう。
戻れない。
どこに?
「……どこに戻るんだ………?」
思い出せない。
俺がどこからきたのか。
何から逃げていたか。
俺は……?
頭が急に真っ白になる。非常事態だった。
「………思い出せない……!!」
俺は頭を抱え、必死に過去を思い返す。ほおには冷や汗が滴り落ちていた。
數十分、必死に思い返したが、どうしても歩き続けていた記憶の先が見えない。
完全に自分のことすら記憶から抜け落ちている。
名前すら思い出せない。
何者かも思い出せない。
顔じゅう汗だくになっている。
「記憶喪失、ですか…」
目の前で彼女はため息を漏らす。
相当な厄介者に見られていた。
無理もない。奴隷よろしくなていの記憶喪失の男を拾ってしまったんだから。とはいえここまで俺がお荷物であることを実感させられると悲しくなる。
「すまない…」
かつてここまで自分の存在が厄介と思われたことがあっただろうか。
存在を呪うほど罪悪感を覚えたのは初めてかもしれない。自分がいたたまれなかった。
ふと、彼女は俺のボロボロな上着の袖に身をやる。
俺も自分の左手首のボロボロな袖を見た。
無残なほどにボロボロな布に、ひとかたまりの金色で縫われた文字。
「RK」の2文字だけが、袖に縫われたまま残っていた。
RとKの間、その後ろにあったであろう文字は解けて取れてしまって、文字の推測はできない。
俺の名前のイニシャルだろうか。
「R……K……リク…………」
ふと彼女が呟く。
「リク?」
「貴方の仮の名です。名前がなくては呼びようがありませんから」
「そうだな。リク………か………」
俺の仮の名前が決まった。リク。
なぜかその韻に何か感じるものがあった。まるで過去にそう呼ばれていたかのようにさえ感じるほど、懐かしく響いた。
「貴方のことはリクと呼ばせていただきます」
速攻で決まった。
「私はミキナと申します。ミキナ・クロスヴェルフェ」
彼女ーーミキナはそう名乗った。
「…クロス………ヴェル……フェ…?」
初めて聞く名前だが、何故かスラっと呼んでしまった。
「ミキナと呼んでください。リクさん」
「あ、ああ…ミキナ」
何故だろう。彼女の名前もまた、胸の底をくすぐってきた。







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