SCENARIOS

シナリオ:陸圓編:【絆意志_03】

シナリオ一覧に戻る

陸圓編:

【絆意志_03】

絆意志 #3  俺が見たものは…

満月の真夜中、俺は森への歩みを止めない。
ミキナの住処からだいぶ離れている。
何度も引き返そうとも思った。
ミキナに出くわしたら何を言われるか。
森に入って生きて出られるか。
不安も数えればきりがない。
それでも俺は、前に歩をすすめた。
「毎週現れ、人を喰らう人狼」を突き止めるためにーーーーーー。

森へ差し掛かる。
それまでの獣道とは打って変わって、道という道もない。
木が辺りに生い茂り、月を覆い隠すかのように葉がかぶさっている。
夜行性の虫鳥の音が甲高く響き、夜なのに騒がしい。
「迷い森……か」
命が惜しくば近づくなとミキナのいった迷い森。
文字通り道に迷いそうで、命を落としてもおかしくはなさそうだった。
だが俺は不思議と怖さは無かった。
心の奥底に、何かはわからないが、これとは比べ物にならないほど怖いものを感じたからだった。
「さて、どうやって奥地に行くかだが……」
俺はそう呟いて足元を見てみる。
草むらの中、草が踏まれている箇所があった。
それほど時間のたっていない足跡だろう。
大きさからして子供ぐらい、数からして数人。
それは森の奥へと伸びている。
「なんだこりゃ……?」
不可解で仕方がなかったが、今はこれほど頼りになるものはない。
俺はその跡に沿って、森に足を踏み入れた。

森へ入ってどれくらいたったかはわからない。
森の中も一掃暗さを増している。
時折溢れる月明かりと足元の足跡を頼りに俺はひたすら進んでいた。
正直驚くほど早いペースで進んでいる。
かなり骨の折れるものかと思っていたが、自分の体が思ったより軽く、スムーズに動いている。
過去にこういったことを何度もやったのだろうか、全然疲れを感じない。
だが、それよりも驚くのは足跡の道が確実に安全なルートを通っていることだ。
道中モンスターのようなものに出くわすかと覚悟していたが、実際はモンスターの横を抜けるようなルートがちらほらあっただけで、交戦は一度もない。
危険な吊り橋や飛び越える場所といったものも一箇所もない。
隙間を抜けるかのようなルートで、計算されているルートであることは間違いない。
と思うとこの足跡にますます疑問が生じる。
「どう見ても一人だけの足跡じゃない…こんな時間に子供が複数人だなんて…」
そう思いながら歩を進めていると、ひときわ明るい場所に出た。

そこは森のはずれだろうか。
あれだけ生い茂った木も鳴りを潜め、月明かりが地面を照らしている。
ここがミキナのいってた「絆石」の眠る奥地であってもおかしくないほど、周りとは景色が違う。
「休憩するか…」
月明かりを浴び、背伸びしていると奥の方で何やら声が聞こえた。
子供の声だろうか。複数人騒いでいる。
俺はそっと近くの低木まで近づき、耳をあててこっそり奥の様子を伺った。


「だーかーらー!その石さわらせてってばー」
「ダメです、今すぐ帰ってください!」
子供が言い合っていた。
片方は聞き慣れた声。ミキナの声だ。
ミキナの怒鳴り声を聞くのは初めてだ。
「なんでよー!持って帰ったりしないからさー!」
もう片方もわずかに聞き覚えのある声。
昼間世話になったおばさんとこの子供の声に近かった。
(なんで子供がこんな時間に……?)
止めようかと思ったが、事情をはっきりしるべく会話を聞くことに専念した。
「触るのは危険なんです!帰ってください!」
「えぇーー!せっかくお母さんに内緒で来たってのにーー」
「ノルお兄ちゃん、どうしよう?」
「もう最後のチャンスだよ!帰ったらお母さんに怒られて二度と外へ出られないよ!」
「ならなおさら今すぐ帰って下さい!!朝になったらもう帰れる保証はありませんよ!」
ミキナが必死で帰るように言っている。
「ガンコだなぁー」
「こうなったらゴリ押しだーー!」
そういうと同時に複数人がぶつかる音がした。
俺は思わず振り返り木の陰から有様を見た。
「や、やめてくださいってば!!!」
「やだーー!触っちゃダメなら意地でも触る!」
一つ大きな木を囲う柵の前で
子供3人がミキナと取っ組み合ってる。
ふと、重みで全員が塊のように倒れた。
その直後、ミキナのものであろうフードがその塊からふわりと浮かび、塊の横に落ちた。
「いまのうちだーー!」
一人塊から外れ、柵を越えた。
さすがに止めなければ。
「おい、何やってんだ!」
俺は体を出し集団に向け声をあげた。
その場にいた子供は全員止まり、こっちを向いた。
俺は子供達の方へ向かう。
「あ、昼間のにいちゃんだ!」
「にいちゃんも母さんの言いつけ守らなかったー!」
「お前らなぁ……」
子供たちは俺の方へ向かう。
だが、ミキナは倒れたままこっちを向かない。
それどころか、不自然に痙攣している。
「………ガ……ギギ……」
痙攣するミキナの方から、とてもミキナの声とは違う声が聞こえた。
全員がすぐにミキナの方を向いた。

「……ガァ……グゴ……」
奇妙な声を立てながらミキナはゆっくり起き上がる。
明らかに様子がおかしい。
白い薄緑の髪の毛の先がどす黒くなっている。
肌の色はいつも以上に白身を増しており、白い毛が伸びている。
さらに両手は異様に血管が浮き出ているだけでなく、爪が鋭利に伸びている。
「なななななに…!?」
「お兄ちゃん…怖いよ……」
子供たちはとっさに俺の後ろに隠れ、膝をガクガク鳴らしている。
ミキナはゆっくり顔を上げる。
見えたその顔は晩に見た顔ではなかった。
鼻から上を白い毛が覆い、白目をむき出しにしている。
顔にも血管が浮き出ており、歯には牙がある。
「グゴゴゴゴゴゴ……」
その姿はもはやミキナではなかった。
ミキナの体をした怪物。
そうとしか見えなかった。
だがさっきまで必死に止めていたミキナには間違いない。
子供たちは震えたまま、座り込んでいる。
俺は息を飲み込み、気がつけば自然に身構えていた。

刹那、ミキナが消えた。
俺の体も、考えるより先に動いた。

鈍い音がした。

俺はミキナの両手首を掴んでいた。
一瞬だが、たしかにミキナの攻撃を防いでいた。
「ヴァァアアア!!!」
俺の顔まで30cmもない距離でミキナが咆哮を上げ睨みつけてくる。
牙を見せ、ありったけの唾液を出し威嚇する。
俺は我に返り、後ろの子供達に叫ぶ。
「早くここから逃げろ!来た道を戻るんだ!!!」
その声を聞き、子供たちは一目散にその場を離れた。
その時、掴んでいたミキナの手が解けた。
「!!」
考えるのもつかの間、ミキナの右手の爪が左肩に突き刺さった。
「ぐっ!!」
激痛をこらえ、降りかかった左手を体でかわし、俺は右手で突き刺さったミキナの爪を引っこ抜いた。
またも激痛が走るが、耐えてミキナと距離をとった。
ミキナの爪と服は俺の血が大量に付いている。
「グルルルルル…」
その血を舐めて、ミキナは白目で睨みつけてくる。
間違いない。
毎週現れる、人を喰らう人狼。それがミキナであること。
「……やっぱり、ミキナ、お前だったか……」
そう俺はいい、心に決めた。
この怪物を倒し、ミキナを救う。
この村の、毎週の怪異をここで終わらせる。

刹那、ミキナが飛びかかる。
俺とミキナの、タイマンが始まった。

シナリオ一覧に戻る